こんにちは!歴史ワールド管理人のふみこです。
今回は、「知恵の王様」として有名な、ヘブライ王国(古代イスラエル王国)最盛期を築いた、ユダヤ人で最も偉大な王、ソロモン王の生涯を解説します。
「ソロモン王=知恵の王様」というイメージは多くの人が持っているでしょう。そして、「ソロモン」という名前は、「ソロモン諸島」「ソロモンの栄華」「ソロモンの指輪」「ソロモンの偽証」など、さまざまな場面で使われています。
世界史の枠を超えてその名が知れ渡っているほど有名な彼ですが、いったいどんな人物であり、どんな活躍をしたのでしょうか?
この記事では、まず当時の世界とユダヤ人の時代背景を分かりやすく解説し、ソロモン王の生涯を追っていき、最後に逸話を紹介します。
ソロモン王が生きた頃の時代背景
世界の状況
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ソロモン王は、紀元前1011年にヘブライ王国の都エルサレムで生まれ、紀元前931年に亡くなったとされています。ソロモン王が生きた紀元前1000年頃は、大国が衰退期を迎え、次の大国が生まれるまでの過渡期でした。
オリエントでは、紀元前1200年頃に系統不明の海の民の侵入によってアナトリアのヒッタイト王国、ギリシアのミケーネ文明、エジプトの新王国といった大国が衰退に追い込まれ、その影響を受けたメソポタミア北部のアッシリア、メソポタミア南部のバビロニアも衰退していました。
中国は、殷王朝が滅びて周王朝が誕生した頃でした。インドでは、アーリア人がインダス川上流からガンジス川上流へと移動し始めた時期です。そして日本は、縄文時代でした。
このような大国の衰退によって、メソポタミアとエジプトに挟まれた地域であるシリア・パレスチナでは、権力の空白が生まれます。そのような中、多くの小国が誕生し、ソロモン王が生まれたヘブライ王国もその1つでした。
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ユダヤ人とヘブライ王国

ユダヤ人がユダヤ人と呼ばれるようになるのは紀元前586年のバビロン捕囚以降であり、この頃はヘブライ人と呼ばれていました。ヘブライ人というのは他民族からの呼称であり、自分たちではイスラエル人と言っていました。ヘブライ人は紀元前1500年頃からシリア・パレスチナ地方に定住していたセム語系の民族です。聖書によると、ユダヤ人の父祖アブラハムがカナンの地(パレスチナ)を神から与えられ、メソポタミア南部のウルからカナン(パレスチナ)に移動したとされています。

ヘブライ人には12の部族があり、選挙で民族指導者である士師を選出していました。そんな中、次第に民から王政を望む声が高まります。そこで士師サムエルは、神の指示によりベニヤミン族の背が高く美しい若者サウルを選び、最初の王とします。ヘブライ王国の誕生です。ヘブライ王国のことも自分たちではイスラエル王国(古代イスラエル王国)と呼んでいましたが、一般的にはこの時の王国のことをヘブライ王国と呼び、紀元前922年頃に分裂した北半分の国をイスラエル王国と呼びます。

父ダヴィデ王

初代王サウルに竪琴弾き兼戦士として登用されたベツレヘムの羊飼いの子ダヴィデは、宿敵ペリシテ人との戦いで頭角を表します。やがてサウルが戦死すると、紀元前1000年、ダヴィデが2代目国王となります。

ソロモン王の生涯
ヘブライ国王ダヴィデの息子として生まれる
ダヴィデは、あるときバト・シェバという美しい女性に心を奪われます。しかし、バト・シェバはウリヤという人の妻でした。そこでダヴィデは、バト・シェバを手にいれるためウリヤを戦場の最前線に送り、戦死させます。ダヴィデとバト・シェバの間にソロモンという男の子が生まれ、ダヴィデはソロモンを後継者にします。ところが、ソロモンは長男ではなく、ダヴィデは他の女性との間に何人も子供がいます。バト・シェバを寵愛するあまり、ソロモンを後継者にしたのです。そのことがダヴィデの子供達の間での骨肉の争いに繋がります。三男アブサロムが長男アムノンを殺し、さらに父ダヴィデに対して謀反を起こし、一時期ダヴィデは都エルサレムを追われます。最終的に謀反は鎮圧されますが、ダヴィデの意に反してアブサロムは殺されてしまいます。また、ダヴィデの子アドニヤが自ら王を名乗る事件が起こります。しかし、ダヴィデがソロモンを後継者にすると宣言し、ソロモンが次の王に決まります。そして紀元前961年、ダヴィデはこの世を去ります。紀元前961年、ソロモンがヘブライ王国の王になったのです。
ソロモンの栄華

領土を大きく拡大した父ダヴィデと対照的に、ソロモン王は内政と外交を重視しました。エジプト、メソポタミア、地中海を結ぶ中間地点という立地を生かし、通商路を整備して外国との交易を発展させ、莫大な富を蓄えます。官僚制度を整備して中央集権体制を確立させ、大規模な土木工事を行って都市を強化します。ソロモンは初めてエルサレム神殿を建設し、ソロモン神殿とも呼ばれます。この神殿は、ユダヤ教の唯一神ヤハウェを祭るためのものでした。さらに、フェニキア人のティルスと同盟してフェニキア人の交易を保護し、エジプトのファラオの娘と結婚するなど、周辺諸国との友好関係を強化します。
このように、ソロモン王は内政と外交を重視して巨万の富と平和を築き、「ソロモンの栄華」と呼ばれる、ユダヤ史上最も繁栄した時代を作り上げます。
重税への反発と宗教的対立
しかし、ソロモンは土木工事や神殿建設などのために国民へ重税を課しており、国民の反発を招きます。また、自分の出身部族ユダ族を優遇したことで他部族の反発を招き、さらに外国との関係を重視してユダヤ教以外の宗教を認めたことで、一神教であるユダヤ教徒の反発も招きます。一説には、他の宗教を認める、つまり唯一神ヤハウェ以外の神を認めたことで、神ヤハウェから見放された、という説もあります。
ソロモン王の死後にヘブライ王国分裂

紀元前931年にソロモン王は亡くなり、息子のレハブアムが後を継ぎます。しかし、国民の不満が高まっていたことで、ソロモンの死後すぐに反乱が起こります。その結果、イスラエル12支族のうち北部10支族がエフライム族出身のヤロブアムを擁立して分離独立し、紀元前922年、イスラエル王国(北イスラエル王国)が成立します。残された南部のユダ族とベニヤミン族は、レハブアムを国王とするユダ王国となります。都エルサレムはベニヤミン族の土地だったため、ユダ王国の都になります。



ソロモン王にまつわる逸話
ソロモン諸島とソロモンの宝

南太平洋のメラネシアにある国、「ソロモン諸島」の国名は、ソロモン王に由来します。1568年、スペイン人探検家アルバロ・デ・メンダーニャ・デ・ネイラがヨーロッパ人として初めてソロモン諸島のガダルカナル島に訪れます。このガダルカナル島で砂金を発見し、これが探し求めていたソロモン王の財宝だと考え、この砂金を「ソロモンの宝」と名付けます。そしてこの周辺の島々を「ソロモン諸島」と名付けます。
神から知恵を授けられた?
ソロモン王が神ヤハウェを祭るエルサレム神殿を建てたことで、神から「何でも望みのものを与えよう」と言われ、知恵を求めたという説もあります。
ソロモンの裁き

ソロモン王の賢さをあらわすエピソードとして有名なのが、「ソロモンの裁き」です。
2人の遊女がほぼ同時に男の子を産みます。しかし、1人の母親が子供に覆い被さって寝てしまい、男の子を死なせてしまいます。そこで、その母親がもう1人の男の子が自分の子供だと言って争いになりました。するとソロモン王は、「剣で男の子を2つに切り裂いて、半分ずつにすると良い」と言います。これに対して1人の母親は「ぜひそうしてほしい」と言い、もう1人の母親は「この子を生かしたままこの人(ぜひそうしてほしいと言った遊女)にあげてください。この子を殺さないでください。」と言います。どちらが本当の母親かは明白です。ソロモン王は、男の子を生かしたまま、もう1人の母親(殺さないでと言った遊女)のほうに与えました。
ソロモンの指輪で悪魔を使役した!?

エルサレム神殿の建設に時間がかかり、困ったソロモン王は、山に登って神ヤハウェに祈ります。すると、大天使ミカエルが現れ、ソロモン王に指輪を授けます。その指輪は悪魔を従わせることができる指輪で、ソロモン王は指輪の力で悪魔を使役し、神殿を完成させます。
ソロモンの指輪で動物と会話した?
ソロモンの指輪には、動物や植物の言葉が分かるという伝説があります。ソロモン王は、指輪を使って動物や植物と会話したのでしょうか。
ソロモンとシヴァの女王

アラビア半島南端にあったシヴァの国の女王がソロモンの知恵を確かめるため、エルサレムに訪れたと旧約聖書に書かれています。女王はソロモン王に難問を投げかけますが、その全てに答えたので、女王はソロモン王を褒め称え、多くの財宝や香料を贈ったとされています。
金の盾伝説
ソロモン王はシヴァの女王との出会いの後に、金でできた大盾200個と小盾300個を作りますが、のちにエジプト第22王朝のシェションク1世に略奪された、という伝説があります。
作者不明の魔術書「ソロモンの鍵」

「ソロモンの鍵」とは、何かを開ける鍵ではなく、中世ヨーロッパで作られた作者不明の魔術書群です。15世紀頃までの作られ、17〜19世紀に広く出回ります。
手相「ソロモンの星」「ソロモンの輪」

手相占いにおいて、五芒星は「ソロモンの星」と呼ばれる特殊な手相で、大きな幸運がもたらされるとされています。

手相占いにおいて、指の下を囲むような輪を、「ソロモンの輪」と呼びます。これは、上昇志向が強くカリスマ性があるとされる、特殊な手相です。
「ソロモンの偽証」などさまざまな作品に名前が使われる

宮部みゆきの長編推理小説「ソロモンの偽証」など、さまざまな作品にソロモンの名前が使われています。それらの共通点は、知恵・幸運・富といったもので、「知恵の王様」「ソロモンの栄華」といったソロモン王のイメージから、ソロモンの名前が使われています。
ソロモンの栄華も百合に如かず

新約聖書に「ソロモンの栄華も百合に如かず」という一文があります。これは、かのソロモン王が作り上げたものであっても、人間が作った人工物は、神の創造物である自然には及ばないという意味です。逆に言えば、この例えになるほど、人間が作った人工物の中でソロモンの築いたものは素晴らしかったと言えます。